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デジタル・エコシステム研究会 過去の研究会
2023年度 第1回 デジタル・エコシステム研究会開催実施報告
日 時 :
2023年10月6日(金)17:00~18:30
場 所:KANDAI Me RISE - 関西大学 梅田キャンパス 4階ラボ
テーマ: グローバルトレンドから見る、これからの日本のデジタルオーディオ広告
講演者: 村上正大(Spotify Japan K.K. Account Director)
モデレーター:長谷川想(電通メディアイノベーションラボ)
概 要:
日本は世界第4位のデジタルオーディオ消費国であり、すでに27%の人が音楽ストリーミングサービスを使っています。しかし、アメリカではすでに73%の人が週1回以上音楽ストリーミングサービスを使っています。
また、2022年の日本の広告費ではラジオデジタルは22億円であったのに対し、アメリカでは2021年の時点で、すでにデジタルオーディオ広告費は6,500億円を超える規模まで拡大しています。
今、日本でも注目を集めるデジタルオーディオ広告はいかにして、グローバルで支持され、日本ではどのような普及が期待されるのか。Spotify独自の調査結果なども含めながら、ご紹介いたします。
講演者プロフィール:
村上正大(Spotify Japan K.K. Account Director)
1981年大阪府生まれ。神戸大学経営学部を卒業後、広告会社の電通に入社。ラジオ局(現ラジオテレビ局)にて、10年以上音声メディアセールスに従事した後に、営業局にて、自動車メーカー、音声コンテンツ配信サービスの担当営業として、メディアプランニング、キャンペーンプランニングなどを経験。退社後、飲食店経営、IT企業でのマーケティング部長を経て、2023年1月より現職。
報告内容:
IASが日本デジタル広告業界の 2023 年トレンド予測を発表したが、広告主が最優先で取り組む広告フォーマットとして、オーディオメディアが59%で第2位となった。(1位モバイル60%)先行するアメリカのデジタルオーディオ広告市場は、2021年ですでに、日本円で6,578億円となっている。(IAB)一方日本のラジオデジタル広告費(電通「日本の広告費」)(スポティファイは含まれない)は2022年で22億円にとどまっている。アメリカでデジタルオーディオが普及している要因は、スマートフォン、スマートスピーカー、ワイヤレスイヤホンなどの普及が急速に広がっており、視聴環境が日本と比較して整っているためと考えられる。
デジタルオーディオメディアの歴史はインターネットとともに始まったが、2006年にSpotifyは創業し、海賊版の撲滅を目指して4大レーベルと契約し、2011年にアメリカに進出した。現在世界では、月間アクティブユーザー数は5.5億人、有料会員数は2.2億人を超えている。(2023年8月)
アメリカでのスポティファイの広告フォーマット別のセールス状況では、直近3年ほどは、ビデオ広告よりも音声広告が大きく売り上げを伸ばしている。コロナ禍を機に、心を癒し、高めるオーディオコンテンツへのニーズが高まり、スポティファイのプラットフォームが伸張したと考えている。また、リスナーが「今していること」に対してターゲティングできる広告は少なく、クリエイティブなアイディアの源泉になっていると考えている。
このような大きな潮流は、ミレニアム世代とZ世代による利用の拡大によるものである。特にZ世代では、直近3年間でリーチが4倍になっている。彼らの日常に、音楽や音声配信サービスが既に取り込まれていると考えている。視覚的な刺激の多さにストレスを感じているZ世代も多く存在するとも思われる。
また、ポッドキャストの人気が日本で高まっている。2022年にはポッドキャストのユニークリスナー数はSpotifyが本格的にポッドキャストの展開を開始した2019年と比べ42倍となり、Spotifyで楽しめるポッドキャストのタイトル数は500万を超えている。海外同様に今後日本でもスポティファイのポッドキャストの広告配信が段階的に可能になることで、プレミアム会員に対して唯一リーチできる広告メニューとなる。
総広告費に占めるオーディオ広告の比率では、アメリカが3%弱に対して、日本は0.03%にとどまっている。日本での市場拡大も多いに期待できるものと考えている。今後もブランド、クリエイター、リスナーがより深くつながりあえる関係をサポートしていきたいと考えている。
文責 電通・長谷川
2022年度 第1回 デジタル・エコシステム研究会 実施報告
日 時 :
2022年11月4日(金)17:30~19:00
場 所: オンライン開催(Zoom Cloud Meetingsを利用)
テーマ: 倍速視聴の現在形 「作品の鑑賞」から「コンテンツの消費」へ
講演者: 稲田豊史(編集者、コラムニスト、ライター)
モデレーター:長谷川想(電通)
概 要:
映画やドラマを初見時から1.5倍速、2倍速といった再生速度で観る「倍速視聴」や、退屈なシーンをスキップしながら観る「10秒飛ばし」をする人が増えている。2021年の民間調査によると、20代から60代の34.4%に倍速視聴経験があり、20代は49.1%を倍速視聴経験者が占めた。
彼らはどのようなコンテンツを、どのような必要性から「時短視聴」しているのか。それで作品を楽しめるのか。このような視聴習慣が広がった背景には何があるのか。実際に倍速視聴しているユーザーへのインタビューほか様々なデータによって、それらを明らかにする。
講演者プロフィール:
稲田豊史(編集者、コラムニスト、ライター)
1974年愛知県生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、映画配給会社のギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)に入社。その後、キネマ旬報社でDVD業界誌の編集長、書籍編集者を経て、2013年に独立。著書に『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)。近著に『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』がある。2019年より産業能率大学「エンターテイメントビジネス講座」のゲスト講師。
【WEB】http://inadatoyoshi.com
【Twitter】https://twitter.com/Yutaka_Kasuga
報告内容:
ドラマや映画などの動画を、視聴、もしくは10秒スキップなどして視聴する若者が増えている。その背景には、大きく3つ理由があると考える。第一に、ネットフリックスなどのサブスクリプションサービスや、放送局の見逃し配信サービスの普及・拡大がある。第二に、タイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)を求める人の増加がある。第三に、セリフですべてを説明する映像作品の増加がある。
若者にとっての映像作品は、自己充足のために視るものではなく、友人知人とのコミュニケーションのツールになっている側面があり、つまらない作品の視聴に多くの時間を割きたくない、また作品の内容を正しく理解したいなどの欲求から、事前に作品の重要な内容や評判を理解した、いわゆる「ネタバレ視聴」も加速している。
若者のテレビ番組の視聴態度も変わりつつあり、「ながら視聴」がベースであるが、番組内容が無駄に長いことを嫌悪し、さらに意見ではなく情報そのものを求めるなど、従来制作者が前提としていた視聴者像とは異なりつつある。また多くのテロップは、テレビ番組の倍速視聴を助長していると言える。
質疑応答
Q:コンテンツそのものが受け入れられづらい環境にあるが、広告などの企業からのマーケティングメッセージの受容性を担保するためのヒントはないか?
A:ハイコンテクストなメッセージは受け入れられづらいと考える。クリエーティブを検討する際にはより直接的なメッセージにするのがベターと考えられる。
Q:今の若者やそれ以降の世代のクリエーティビティに関してどう考えるのか?
A:日本では美術で作品の鑑賞法を学ぶ機会もなく、現状クリエーティビティの育成には厳しい環境と考えるが、一方で幼いころから海外のより良いコンテンツに触れることでの新たな可能性もあるとも考えられる。
Q:書籍については、速読が一般的にあり、先に結論を読んでしまうことに関しても、権利者の違和感などは生じていないと考えられるが、映像や動画に関して、このように権利者のアレルギーが発生するのはどのような理由があると考えるか?
A:映像などは時間芸術の側面があり、制作者などの意図した順序で観てもらいたいとの
意識が強いとことがその背景にあると考えている。
以上
2021年度 第1回 デジタル・エコシステム研究会
日 時 :
2021年9月2日(木)13:00~14:30
場 所: オンライン開催(Zoom使用)
テーマ: コンテンツツーリズムからメタ観光へ――ソーシャルメディア時代の観光を考える
講演者: 菊地 映輝 氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 研究員/講師)
概 要:
スマートフォンやソーシャルメディアの登場によって観光のあり方が大きく変化している。私たちは地球上のどこを観光していても、自国にいる家族や友人たちとSNSやメッセージングアプリを介したオンラインコミュニケーションを行うことができる。そうしたコミュニケーションのネタを作るために観光が行なわれる場合すらある。観光客の振る舞いが変われば、観光地のあり方も当然変化していく。巨額を投じて観光施設を整備するのではなく、少額でも良いからソーシャルメディア上で話題になる工夫をすることが求められつつある。
情報社会における観光現象を切り取るフレームワークとして、これまで日本国内ではコンテンツツーリズムが知られていた。しかし、これはコンテンツ作品の存在を前提とした観光の議論であり、コンテンツからコミュニケーションに主眼が置かれるようになった今日の観光のあり方を分析する際の道具としては不十分な側面もある。本報告では、ソーシャルメディア時代の観光を分析する道具として「メタ観光」という概念を紹介し、コンテンツツーリズムなどの既存の議論とどのように接続し、どのような差異があるのかを論じた上で、その可能性を提示する。
講演者プロフィール:
菊地映輝(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 研究員/講師)
1987年、北海道生まれ。博士(政策・メディア)。2017年、慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院研究員などを経て、2019年より現職。専門は文化社会学、情報社会論等。コンテンツツーリズム学会理事、一般社団法人メタ観光推進機構理事なども務める。現在は、情報社会における文化事象について都市とネットを横断する形で研究を行っている。
2020年度 第2回 デジタル・エコシステム研究会
日 時 :
2021年3月10日(水)14:00~16:00
場 所: オンライン開催(Zoom使用)
テーマ: 「キャラ縁」の聖地~現実と仮想(虚構)を架橋する「キャラ」~
報告者: 谷村 要(大手前学園大手前大学メディア・芸術学部 准教授)
報告内容:
近年の「アニメ聖地」においては、アニメやマンガ作中において明示的に登場しないにもかかわらず「聖地」と化している地域がみられる。2020年に大ヒットした『鬼滅の刃』の聖地とされる場所(「鬼滅聖地」)はその代表例といえるが、本報告では、報告者が2016年以降に調査を進めてきた静岡県沼津市の事例をもとにその形成の過程を分析したい。
なお、分析にあたっては、伊藤剛がマンガ表現をとらえる際に用いた「キャラ」概念を援用する。伊藤のいう「キャラ」概念は「キャラクター」と区別されるもので、キャラクターを構成する特徴のある要素を意味する。この「キャラ」の存在感をファンが深く読み込むことによって、キャラクターの二次創作がなされることを伊藤は指摘したが、「聖地巡礼」も、ファンが作品の構成要素を読み込むことで「聖地」を見出している様子がうかがえる。現実の場と作品世界がどのように結び付けられているか。地域の活性化への実践やファンの「読み」によってつくられる「キャラ縁」の聖地の実態と今後について議論したい。
2020年度 第1回 デジタル・エコシステム研究会
日 時 :
2021年1月26日(火)16:30~18:00
場 所: オンライン開催(Microsoft Teams使用)
テーマ: 「同時配信・見逃し配信 NHKプラスについての現状や課題」
講演者: 赤岩 勇二 氏(NHKデジタルセンター専任局長)
〇講演者プロフィール:
兵庫県出身。1989年(平成元年)、NHKに記者として入局。
鳥取放送局、報道局政治部、大阪放送局報道部などで勤務し、2019年(令和元年)に本部デジタルセンターに異動。
2020年(令和2年)からデジタルセンター専任局長としてNHKプラスなどを担当。デジタルセンターに配属されるまでは30年間、報道部門での業務に携わってきた。
講演概要:
「NHKプラスの概況について」
常時同時配信・見逃し番組配信(サービス名「NHKプラス」)は、2020年3月に試行的に実施したのち、4月から本格的なサービスを開始しました。
より多くの皆さまにNHKの番組に触れていただくことを目指して、放送に加えてインターネットでも視聴できるサービスとして実施しており、パソコン、スマホ、タブレットで、いつでもどこでも利用していただくことができます。
2020年12月末までのID登録の申請は130万件あまり、登録数は105万件あまりとなっており、現場では、手応えを感じると同時に、もっと多くの方に登録していただくとともに、「普段使い」していただけるよう、サービスの向上、改善に努めていかなければならないと感じています。
これまでの現状と2年目に向けた取り組みなどをご説明させていただき、皆さまからご意見たまわれれば幸いです。
NHKデジタルセンター専任局長 赤岩勇二
2019年度 第2回 デジタル・エコシステム研究会
日 時 :
2020年1月31日(金)18:00~20:00
場 所 :
関西大学梅田キャンパス7階 603室
(大阪市北区鶴野町1番5号 )
テーマ: 「中国における自媒体の発展とジャーナリズム」
報告者: 巍巍(ウェイウェイ)(関西大学大学院)
モデレーター: 岡田朋之(関西大学)
報告概要: 中国では2010年代以降、微博(Weibo)や微信(WeChat)等のSNSの急速な発展と拡大にともなって、これらのサービスをプラットフォームとして展開する個人ベースの情報発信が「自媒体」と呼ばれるようになり、大きなブームとなった。非専門家ユーザーによる「自媒体」を通じたジャーナリズムは、それまでの掲示板やブログを中心としたネット世論の展開に新たな局面をもたらしている。本報告では、この自媒体の発展の経緯や現状を明らかにしつつ、いくつかのネット事件の事例をもとに、自媒体がニューメディアのジャーナリズムとしてどのように機能しているのか、その可能性と限界について検討したい。
参加費 :無料
申込方法 :件名を「デジタル・エコシステム研究会参加申込」とし、氏名、所属、連絡先(電子メールアドレスまたは電話番号)を明記の上、下記メールアドレス宛までお申込ください。kenkyukai@jsicr.jp
2018年度 第2回 デジタル・エコシステム研究会
日 時 :
2019年3月26日(火)17:00~19:00
場 所 :
関西大学梅田キャンパス 7階701室
テーマ: 「radikoの進化とアーティストコモンズによる独自のメディアエコシステム形成の可能性」
報告者: 三浦文夫氏 (関西大学社会学部教授)
モデレーター: 長谷川想氏 (株式会社電通関西支社MCソリューション局)
報告内容: 関西大学の三浦でございます。自己紹介しますと、もともと広告代理店の電通で、営業を長く担当、この他、テレビやインターネットビジネスの担当をしておりました。本日はよろしくお願いいたします。
さて、メディアプラットフォームの構築にあたっては、まず最も大事なものはビジョンです。それを具現化するものとして、技術、権利処理、ビジネスモデルが重要と考えております。私が関わりましたRadikoについては、「ラジオを中心とした音の世界によって喚起される想像の世界を広げ、新しい文化、経済、コミュニケーションを育むオーディオ・プラットフォームを目指す」というものでした。また個人的には、「新しい音楽に出会う機会を創る」というものもありました。私個人の話をしますと、子供のころからラジオに接する機会も多く、ラジオそのものを自分で作る、そこからアマチュア無線などにも興味をもつようになったような背景も持っております。
ところでラジオについては、特に2000年以降、ラジオ受信機の減少、都市部の高層建築などの影響からの受信状況の悪化、若者層のラジオ離れなど、厳しい環境にあることは事実です。そこで、ラジオ放送を、インターネットを通じて受信できれば、パソコンがラジオ受信機になり、リスナーの聴取機会も増え、都市部の難聴取対策にもなると考えました。結果的には、2005年、AM、FMとも雑音のないステレオ音声を楽しむことができるIPサイマルラジオプロジェクトを開始することにいたりました。
2005年のプロジェクト開始にあたり、私自身にとって重要なイベントとして1995年11月のAPEC大阪会議があります。この会議を機に、ネットワーク技術、放送技術、コンテンツ、広告などの様々な関係者が集まり、サイバー関西プロジェクトが発足、IPサイマルラジオ配信の実験を行いました。振り返りますと、ここでの人脈や経験がその後非常に役に立ったと考えております。ところで、このプロジェクト発足後、各方面から「放送法に抵触するのではないか」「音楽やスポーツなどの権利者の許諾はとれないよ」「AMリスナーは、インターネットを通じてラジオは聴かない」などの多くの否定的な意見が多く寄せられました。
2005年のプロジェット発足後、2007年7月にはIPラジオ研究協議会が発足し、大阪ラジオ6局と電通が参加、会長には大阪大学の宮原総長(当時)に就任いただきました。その後2008年4月に実験開始、radikoが誕生、開始当初の登録ユーザー数は、1,000人程度でした。2009年3月まで実験を行ったのですが、音が良いと評判で、継続聴取希望も比較的高く、AMラジオのユーザーが多い結果となりました。当時は、IPv6マルチキャスト方式を採用したため、NTTフレッツ光プレミアム+Windows Vistaなどの利用環境が必要となり利用者が限定されておりましたが、IPv4ユニキャスト方式に変更し、WindowsやMacなどのPCやスマートフォンにも対応するなど、アーキテクチャーを変更し幅広いユーザーの獲得に成功しました。
この時点、冒頭申し上げたメディアプラットフォームとしてのありようとして、技術はIPv4ユニキャスト、権利処理はインタラクティブ配信のためすべて必要、ビジネスモデルとしてはすべて参加放送局負担というものでした。ところでIPサイマルラジオ放送の権利許諾について、主体が各放送局なのか、プラットフォーム(radiko)なのか明確ではありませんした。その対応にあたり、音楽関係はJASRACなどの団体により集中管理されていましたが、タレント、アーチティスト、広告、スポーツ、気象情報など様々なコンテンツについては、権利処理の取り扱いについて一元的に仕組化がされている状況ではありませんでしたが、実験実施に際しては慎重を期して丁寧に説明をしていく方針を取りました。
その後、2010年3月から東京のラジオ8局と大阪ラジオ6局が試験配信を経て、2010年12月より本配信が開始され、同時に株式会社radikoが誕生しました。さらに、2014年4月には、エリアフリー(域外のラジオ放送を聴取できるサービス)を開始、月額350年を支払ったプレミアム会員が利用可能となりました。さらには2016年10月には、タイムフリー、シェアラジオの実証実験を開始いたしました。radikoにつきましては2019年3月現在、民放連加盟ラジオ局101局のうち93局が参加、またNHKも配信実験ののちに、2019年4月から正式参加となりました。一日当たりのアクティブユーザー数は約130万人、アプリのダウンロード数は累計3000万、プレミアム会員(月額350年)は、約58万人となりました。
ところで、radikoに関するものだけではなく、ラジオそのものの価値を再発見する活動を私は行っております。2013年~2016年にかけて、民放連の「ラジオ再価値化研究グループ」の座長に就任し、「シェアラジオ」(タイムフリー)、「ハイブリッドラジオ」、「プログラマティックアド」、「共通音源システム」などに取り組んできました。
「シェアラジオ」については、2016年10月から実験を行っていますが、対象の番組について、一定の期間、音源をそのままSNS上などでシェアできるものです。開始にあたっての権利処理では、当初のradiko以上に調整が必要な局面もありました。「ハイブリッドラジオ」は、「ラジスマ」という名称で、2019年3月6日にリリースを行いましたが、電波経由とインターネット経由の双方で、ラジオ放送を聴取可能なものとなっております。電池やパケットの消費の観点から、災害時などで有効なものとなると考えております。「プログラマティックアド」については、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用し、聴取するユーザーによって同じ時間帯の放送でも、広告を聴取者によって出しわけるというものになります。現在実証実験中となりますが、マス広告のブランディング効果とインターネット広告の効率的なレスポンス獲得効果の良いところを組み合わせて、ブラッシュアップしていく計画です。最後の「共通音源システム」については、ラジオ放送局のインフラに関する設備投資をできるだけ共有、共通化し、設備投資が経営に与える影響を軽減するというものです。Radikoについては様々な外部のデバイスやシステムと連携をしつつあり、Alexaのスマートスピーカーでの聴取も非常に人気も高く、また5Gを活用し、車載デバイスとの連携もより具体的に検討されつつあります。
さて、冒頭申し上げましたが、ラジオの価値として新しい音楽に出会うというものを私は大事にしてきました。例えばラジオ番組で気に入った音楽に出会ったら、音源の購入、ライブやコンサートの情報取得やチケットの購入などができる、そういった音楽マーケット拡大のエコシステムへの展望を持ち始めました。それに際しては、メタデータの整備が重要と考えております。番組IDに関してはradikoで策定中、アーティストに関しては主な音楽権利者団体と共同で、アーティストID(ACID)を共同で作成中、さらに楽曲IDについてはISRCなどが活用できると考えております。
さて、アーティストに関して、その才能と魅力を広く知らしめ、その付加価値を最大化することにより、エンタテインメント産業文化振興とその継承・保全への貢献を目的として「アーティストコモンズ」実証連絡会を2014年10月設立いたしました。代表は、中井猛スペースシャワーネットワーク相談役、私は慶大中村伊知哉教授とともに幹事に就任し、各音楽権利者団体などが参加いたしました。アーティストコモンズの基本的な事業は、一意に識別可能なアーティストID(AC-ID)を付番管理することです。また、様々なメディアやサービス連携することを可能にするAPIの開発や提供、またアーティストオフィシャルプロフィール、写真の提供も手掛けていきます。AC-IDは音楽関連のアーティストを中心に付番しておりますが、タレント、俳優、スポーツ選手、著名人などに広げていくことをめざしております。
アーティストコモンズの機能効果として、正確なアーティスト関連サービスの利用状況の把握、不正利用の防止につながる情報ハブ(indexer)があります。今後は、ライブビューイング、音楽サブスクリプション、イベント・チケット、マーチャンダイジングなどに活用できる基礎的なインフラとして活用できると考えております。これらの取り組みを通じて、GAFAと呼ばれるメガプラットフォームとは異なるエコシステム形成を目指していきます。なおradikoでは、2019年2月18日から試験サービスを開始し、オンエア楽曲に連動した、関連アーティストの公演、チケット情報を提供しています。
さて、冒頭も申し上げましたが、メディアプラットフォームの構築にあたっては、技術、権利処理、ビジネスモデルが重要と申し上げましたが、言うまでもありませんが、それらのベースになるビジョンが最も重要となると考えております。これらは、メディアプラットフォームの構築に限らず、すべてのプロジェクトで最も大切なことと考えています。
ご清聴ありがとうございました。
(質疑応答)
Q.エリア制限について、より詳細に具体的に聞きたい。
A.放送法では、免許を取得した域内に届ける義務があるが、域外に届けてはいけないという規定はありませんが、ただし、CMなどを中心に海外に送信されてしまうことに懸念があると考えています。
Q.ラジオ放送局での、利益や費用配分はどのようにされているのか。
A.人口比と聴取状況などから配分を行っている。
Q. タイムフリーできる番組とできない番組があるのか。
A.権利処理などの都合から、各ラジオ局の編成が決定している。
Q.コミュニティFMなどは参画しないのか。
A.難しいと考えている。
Q.アーティストの名前が変わったもの、グループのメンバーが変更にあった場合の、AC-ID
はどうするのか。
A.可能な限り追跡するが、グループのメンバー変更の反映などは難しいと考えている。
以 上
2018年度 第1回 デジタル・エコシステム研究会のお知らせ
日 時 :
2019年1月11日(金)18:00-20:00
場 所 :
関西大学梅田キャンパス 7階703室
テーマ 「デジタル・エコシステムへの最適化を目論むニュースメディアの進化形
~アルジャジーラが仕掛けるデジタルオンリーメディア『AJ+(エージェープラス)』とは」
報告者:Jun Stinson氏(アル・ジャジーラ プロデューサー、映画監督)
モデレーター:脇浜紀子氏(京都産業大学)
概要:カタール拠点の衛星テレビ局のアルジャジーラ(Al Jazeera)が、2014年末に立ち上げた「AJ+(エージェープラス)」はデジタル配信のみに特化した、分散型メディアである。Facebook、Instagram、Twitter向けに、ショート動画クリップに字幕を有効に使って表現し、政治、国際問題、社会問題といったハードニュースを配信している。Facebookでは月間視聴回数が数十億回に達しており、2016年夏からはYouTubeへのシフトを進め、1話完結の映像作品や、調査報道シリーズなど、より充実した動画コンテンツの制作に力を入れている。
研究会では、AJ+のプロデューサーで、ドキュメンタリー映画監督でもあるJun Stinson氏をゲストスピーカーに迎え、AJ+の立ち上げからの経緯や、現在の戦略などを聞く。UC Berkeleyでジャーナリズムを学んだStinson氏だが、一時期、神戸に住んでいたことがあり、長田区のコミュニティラジオ・FMわいわいが彼女のキャリアのスタートである。多言語メディアの展開や、日米メディアの比較なども交えながら、ジャーナリズムのデジタル・エコシステムの展望を議論したい。
なお、プレゼンテーションとディスカッションは英語で行われる(通訳はなし)。
<参考サイト>
https://www.facebook.com/ajplusenglish/
http://www.junstinson.com
https://digiday.jp/publishers/early-facebook-video-adopter-aj-is-spending-more-time-on-youtube/
https://toyokeizai.net/articles/-/104195
<報告者プロフィール>
JUN STINSON
is an Emmy award-winning producer at AJ+. She's also the director of the independent documentary film "Futbolistas 4 Life" that was an official selection of SFFILM.
With twelve years of experience in journalism and media production, her work covers topics that include immigration, diasporas, transnational identity and the socio-political impacts of soccer.
Prior to AJ+, she was a post-production producer and editor for Al Jazeera America, and worked for a daily politics show on Current TV and on a docuseries for MSNBC. She has worked on the documentaries "The Save," for ESPN, and "Spark: A Burning Man Story" that premiered at SXSW.
Jun grew up in Oakland, California and Kobe, Japan. She got her start in journalism working with FMYY — a multilingual community radio station in Kobe. She helped FMYY and the World Association of Community Radio Broadcasters organize the largest independent media center at the 2008 Hokkaido G8 Summit.
Jun received her MJ from UC Berkeley's Graduate School of Journalism and her BA from Scripps College. When she's not working she's often spending time in the outdoors, traveling or hanging out around Oakland.